「自分ゴトのイノベーション」

 元吉由紀子さんの編著した「自治体経営を変える改善運動」を読んだ。

 まず目を引いたのが、「改善と改革の違い」。改善はボトムアップだけど、改革はトップダウンでやらされ感が強い、という。私はイノベーションを促進することが仕事なので、どちらかと言うと「改革派」を自認していたので、痛いところを突かれた。同時に、「なるほど、確かに」と膝を打った。

 この本は元吉さんのほかに、6人の自治体職員が自らの体験を執筆をしている。そして、皆さん口を揃えて、「改善は楽しい」「改善を一過性に終わらせない」ということを語っている。その対極として、「改革はやらされ感がある」「改革は一過性で終わりやすい」という。

 読み進めるうちに、「自分は改革派ではないかも」と気づいた。この本で言うところの「改善」と「改革」は、「自分ゴトの変化」と「他人ゴトの変化」という分け方なのだと理解したからだ。つまり、「改善」or「イノベーション」という対比ではなく、「自分ゴトのイノベーション」or「他人ゴトのイノベーション」の対比なのである。そう思って見直してみると、元吉さんたちの書いている「改善運動」は、「想いを持った人が主体的にアクションを起こす」という意味で、まさにフューチャーセッションそのものであった。

 日本は現場からの改善が強みだが、欧米のようなトップダウンの変革が弱い、とよく言われる。しかし、それは「理想のビジョンを示して他人を動かす」ことよりも、「いま・ここでを大切にして日々少しでもより良く生きる」ことを私たちが選んでいるということなのだ。それが、元吉さんたちが誇りをもって「改善運動」を謳っていることの意味である。

 これからの日本に、「改革の苦手感」など不要である。「自分ゴトの変化を得意とする希有な国民」という自負をもち、「自分ゴトのイノベーション」を次々と起こしていけばよい。そんなエールを受け取れる一冊である。

 株式会社フューチャーセッションズ 代表取締役 野村 恭彦
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