マネジメントという言葉は、「管理」とか「経営管理」と訳されることが多い。後者だと、組織体全体の理念や戦略という方向づけにかかわる経営と連動したマネジメントを連想できなくもないが、「管理」という言葉だけを聞くと、ネガティブな響きもある。管理と聞いて、わくわくするひとはいない(経営とか、よき戦略とか、ビ
ジョンとかを、経営者やリーダーから聞くと、わくわくすることがあるのと対照的だ)。
マネジメントの標準的定義は、「<こと>を成し遂げてもらうこと(getting things done through others)」という無味乾燥なもので、この言葉から夢を感じることはむつかしい。みなに成し遂げもらう<こと>が、ビジョンだったり、戦略だったり、リーダーの熱き想いというように表現されれば、ぐっとリーダーシップに近づくが、管理のイメージは、粛々ときちんとものごとが成し遂げられるという側に傾斜している。
「リーダーシップ」と「マネジメント」の対比は、学問的にも実践的にも、二分法によくある誤解に満ち溢れているが、実際に実践しているひとが、この両者をどう感じて、どのように実践し、どのような状態をそれぞれに対して理想としているか、議論するのがよいだろう。多少ギスギスしても、破天荒であっても、変革を起こすリ
ーダーシップ、粛々ときちんとものごとが進捗されているマネジメント—どちらも大事で、一方を<いいもん>、他方を<わるもん>にする筋合いのものではない。
その機微を、実際の経験や観察に基づいて理解してもらうために、これまでに出会ったひとのなかからで、「すごいリーダー」に該当すると思うひとと、「できるマネジャー」に当てはまると思うひとを、ひとりずつ実際に接したことのある人物から選んでもらう。
それから、それぞれの人物がフォロワーたちと接している場面を、できる限り、具体的に描いてもらう。そこで出てきたキーワードを、もし議論の場にホワイトボードなり黒板なりがあれば、そこに、対比しながら記していくと、わたしたちが、日常の実践のなかで、どういう具体的な行動、発言、発想法にリーダーシップという言葉を
連想しているか、対照的な姿がある程度、具体的に把握できる。
行政学では、法律による行政という考え方を学ぶが、こちらは、きちんとしていないと困るという部分、どちらかというと行政組織の管理(マネジメント)の側面を照射する。しかし、変革が求められるのは、産業社会の企業のような組織ばかりではない。『地方を元気にする、自治体経営を変える改善運動』というこの書籍のタイトルにあるように、実際に自治体でそのような運動に従事されてきた異なる6自治体の職員の経験を、自治体改善マネジメント研究会代表の元吉さんがまとめられたこの著作では、行政組織に求められている変革とリーダーシップのあり方が述べられている。自治体に限らず、企業や他の組織体における組織変革や組織開発、経営改善について、その理解を深めたい実践家と研究者の双方にお読みいただきたい。
金井壽宏